私の介護体験記3―骨折、バリアフリー、寝たきり
前田丈志

2006年1月、正月明けにケアマネさんから私の携帯電話に連絡を受けた。実家の母が、腰が痛くて起きられない。どうやら転んで腰を骨折したらしい。私が急いで実家に駆けつけると、ケアマネさんが救急車を呼んで要町病院に緊急入院させた。翌朝、今度はヘルパーさんの介護センター岡崎所長さんからの電話で叩き起こされた。骨折で入院させると「寝たきり」になるから、早く退院できるように自宅に介護ベッドやポータブルトイレなどの介護用品を至急手配しなさい、とのお話しだった。ケアマネさんは、しばらく病院に任せて様子みるという意見だったが、入院後の母は、自分で食事をしなくなり目に見えて意欲が失われた感じがした。1週間寝たままでいると、関節の拘縮が始まり、手足が動かなくなる。「寝たきり」を防ぐには、早期のリハビリが肝心なのだ。実は、年末から母の尿漏れがひどくなってきているとの報告が、ヘルパーの砂森さんから「介護連絡ノート」に書かれていた。お正月休みもありケアマネさんは、母の尿漏れ状態の変化を見逃していたのだ。私は、介護センター岡崎所長さんのアドバイスに従い、母の早期退院の準備を進めることにした。意見が対立したケアマネさんは、「訪問看護契約書」にもとつ゛いて解任して、介護センター側のケアマネ森屋さんに変更することにした。家庭の事情や判断にそぐわない場合は、家族が適任のケアマネさんを探す努力を怠らないことも大切である。母は圧迫骨折の診断で、2週間で退院して自宅に戻ることができた。訪問看護師のリハビリと、かかりつけ医師の往診による骨粗鬆症治療の注射を3ヶ月受けて、散歩ができるまでに母は回復した。

 私は、介護用品の手配だけでなく、転倒骨折防止のため、古くなった実家を「バリアフリーリフォーム」することにした。和室の敷居や鴨居を取り除き段差を解消し、玄関や外階段に手すりと防滑シートをつけた。浴室はユニットバス、トイレはウォシユレットに改装。旧式の湯沸かし器は安全な新型と交換し、外にあった郵便受けを2階に設置するために玄関扉も交換工事をした。築35年の老朽化した実家を、母の状態に合わせて、高齢者用のバリアフリー住宅に全面改装した。住む人に合わせて、お年寄りにやさしい住環境を整える工夫も心がけたいものだ。

  散歩が母の日課であったが、時々迷子になって夕方になっても家に帰らない。ケアマネの森屋さんとヘルパーの砂森さんが近所を探しまわって、ようやく母を発見するということが何度かあった。前頭側頭型認知症の場合は、回遊行動といって決まったコースをぐるぐる歩くことが多いのだが、時々コースを外れて帰り道が分からなくなることがある。アルツハイマー型認知症のいわゆる徘徊とは違う。ドコモの子ども向け携帯電話「キッズケイタイ」にGPSを活用した「イマドコサーチ」という位置検索サービスがある。お守り袋に「キッズケイタイ」を入れて、散歩に出かける時は、必ず母の首からぶら下げてもらうようにヘルパーの砂森さんにお願いした。ドコモのiモードから「イマドコサーチ」でGPS検索すると、母の居場所が地図で確認できるようになった。家族とケアマネさん、ヘルパーさんの携帯電話のiモードから「イマドコサーチ」の設定をお願いした。母は、真夏でも散歩を欠かしたことがなく、1日5時間以上歩くこともあった。脱水症状にならないように、水分補給するように言い聞かせた。交通事故などの心配もあり、行動制限することも考えたが、所長さん、ケアマネさん、ヘルパーさんには、私からもしもの時は家族の自己責任であることをお話して、母が自由に散歩することを許した。迷子になったときは「イマドコサーチ」で居場所を検索して、私が自転車で現場に急行して母を捜しあてたこともあった。

  ある朝早くお守り袋の「キッズケイタイ」を忘れて、母が散歩に出かけてしまった。夜になっても家に帰らない。介護センター岡崎所長さんからの連絡で、警察に捜索願を出すことにした。深夜25時半ごろ、自宅から遠く離れた杉並区高円寺のコンビニにいたところを不審に思った店員さんからの通報で、ようやく母は警察に保護された。介護センター岡崎所長さん、ケアマネの森屋さんと家族で、今後の母の介護について話し合っていたとき、実家で同居している兄(長男)から、母の体調がおかしいことを電話で知らせてきた。実は、認知症が進行して在宅介護が難しくなった場合に備えて、豊島区の特別養護老人ホームの申込をしていたが、900人待ちとのことであった。また、父の実家で特養の事務長をしている従兄弟に依頼して、山梨県都留市にある民間の老人ホームにも申込手続はしてあった。結局、母は2度目の緊急入院をすることになった。その後のお話しは、あらためて書きたいと思う。
  
        
(2008年6月10日記)         

参考文献:岩波アクティブ新書 安楽玲子著『暮らしのバリアフリーリフォーム』(2004年刊)
多田富雄著『わたしのリハビリ闘争−最弱者の生存権は守られたか』(2007年刊青土社)

 


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